よりよい保育のために大切なことは、保育者自身が充実した気持ちでいること。
その考えを軸に置き、組織づくりに奮闘する園長がいる。福岡県北九州市の認定こども園三ッ葉保育園にて3代目の園長を務める藤井康介先生だ。
前回のインタビューから1年以上経った2024年現在、三ッ葉保育園は、そして保育者たちの姿はどのように変化したのだろうか。藤井園長が思い描く三ッ葉保育園の未来についても話を聞いてみたい。
保育者の笑顔が溢れる現場にしたい
三ッ葉保育園の保育者たちを率いる藤井園長は一般企業出身だ。園長に就任後、保育業界の実情を知り課題感を持ったという。
──藤井園長は保育業界以外にルーツがあるとのことですが、園長に就任し、保育の仕事に対してどのようなことを感じましたか。
藤井園長「初めて保育業界に入ってきたとき、なんて素晴らしい仕事なんだろうと感動しました。それが保育の仕事に対する第一印象ですね。子どもたちに真剣に向き合う保育者たちの姿を見て、かつて自分は人に対してこんなに強く熱い想いを持ったことがあっただろうかと考えさせられるほどでした。しかし、業界の実情に触れるうちに、保育者は子どもたちに対して強い想いと愛を持っているにもかかわらず、それが自分自身の誇りに繋がっていないと気づいたんです」
──保育は素晴らしい仕事である反面、大きな問題もあると気づいたのですね。
藤井園長「業界を見渡してみると、精神的な負荷によって離職してしまう人も珍しくありませんでした。子どもと接しているときはキラキラした笑顔なのに、事務作業をしているときには疲れた表情の人も多くて。どうしてこうなってしまうのか……考えた末に辿り着いたのは、職員の自己犠牲が当たり前で、評価される体制が整っていないという問題でした。保育者たちは強い使命感を持って働いていますが、正当に評価をされていません。そういった状況を変えるために改革を進めなくては。疲れた顔ではなく、ここを笑顔で溢れさせたい。こうした思いから働き方改革に踏み切ろうと決めたのです」
「仕事人としての保育者」を育てる体制を
藤井園長の強い思いをもとに始まった働き方改革は、今年で3年目を迎える。
──取り組みを2年以上続けてきた結果、何か変化はありましたか。
藤井園長「人手が増えて業務負担軽減に繋がりました。それと、残業が減って休みを取りやすくなりました。『以前より働きやすくなった』と喜ぶ声も聞こえてきます。手当の拡充も行なったので以前より職員の収入もアップしました」
──まさに改革の成果ですね。
藤井園長「しかし、この改革の本来の目的は保育の質を上げることです。まだまだ道半ばであり、保育の質が上がりきっていないのが現状です。今後もみんなで模索して突き詰め、それが普段の保育に体現されていくことをねらっています。そういったプロセスの中で保育者が自分の仕事にもっと誇りとやりがいを感じてほしいです」
──特に1、2年目の若手職員をサポートしていくことも大切かと感じます。業界の傾向として、経験が少ない時期に十分なサポートや教育を受けることができず、途中で心折れて辞めてしまう人も少なくないのかなと……。
藤井園長「この業界は、保育の専門知識を学ぶ研修は充実しているのですが、一般企業では当たり前のように取り入れられている、社会人としてのマインドや姿勢について見つめ直すことができる学びの場がほとんどありません。こういった人材育成の在り方も変えていかなくてはいけないと考えました」
三ッ葉保育園では人材育成の一環として、外部組織主催のワークショップ(※)を導入している。3ヶ月おきに開催され、職員が現在の目標や課題をシェアしたり、対話型のワークを通して自分の特性や強みを認知し認め合ったりする時間となっている。
※KOKONiMOを運営する株式会社 Saticleによる施設運営サポートの1つ。研修や勉強会ではなく、参加者自らが主体的に体験し、共同で学び合える場として機能している。
藤井園長「Saticleさんにワークショップをお任せしているのも、人材育成にも力を入れる必要があると強く感じたためです。私は保育業界外から来たこともあって保育の人材育成のノウハウが少なく、外部の方を頼ることに決めました。保育の専門知識の研修ではなく、仕事人として成長できる内容であったことも導入した理由です。実際にワークショップを体験した職員は、外部の方と共に取り組むことによって普段は言いにくいことを気兼ねなく話すことができ、余計な気遣いをすることなく純粋な気持ちで集中できているようです。保育者の向上心を高め、モチベーションの維持・向上に繋げるためにも、今後もこういった学びの環境づくりを継続していきたいと思っています」
定期的に振り返りの機会を設けることで、保育者が活き活きと輝く
人材育成の取り組みに対して、三ッ葉保育園で働く保育者たちはどのように感じているのだろうか。ワークショップを体験して感じたことや学んだことなどを自由に語ってもらった。
最初に話してくれたのは、新卒で入職して今年で2年目を迎える上原先生だ。保育の世界でスタートしたばかりの彼女は、1年間の学びについてこのように振り返る。
上原先生「定期的に開催されるワークショップを通して、自分の現状を把握したり、できることを考えたりしています。また、振り返りや目標の再設定をすることで、自分にできることが増えていると気づき嬉しいです。短期の目標を立てることで、達成感もたくさん感じられます。仕事が終わって家に帰ってからだとこういう時間はなかなか作れないので、業務時間内にこういう機会があるのはすごくいいなと感じました」
今年初めて1歳児を担当することになった上原先生は、「たくさん勉強して1歳児に関する専門知識をしっかりと身につけたいです!」と新たな目標について前向きに語った。
次に、入職3年目を迎える森本先生に話を聞いた。彼女はワークショップを通して苦手だったことを克服できたという。
森本先生「私は、頭の中で整理して自分の考えを話すことが苦手だったんです。でも、ワークショップの中では、今の考えを書き留めたり頭の中で整理したりする時間がたくさんありました。その内容を他の先生たちの前で発表することによって話す力がついてきたと感じています。私の話をみんなが頷きながら聞いてくれるのも嬉しかったですね。それに、ワークを通してプライベートな話もできるので先生同士の距離も縮まりました。私は出掛けるのが好きなので、そのために貯金しますとみんなの前でプライベートな目標も公言したんです(笑)。大人数の前で宣言したからやる気になりましたね。好きなことを楽しむためにお金を貯めて、仕事もさらに頑張ろうと思いました」
そんな森本先生の新たな目標は「九州を一周すること」だそう。プライベートが充実しているからこそ、普段の保育にも活き活きと臨むことができる。
最後に、ミドルリーダー(主担任)を務める矢山先生に話を聞いた。
矢山先生「ワークショップは主担任同士の貴重な情報交換の場です。保育中はみんな自分のクラスの業務に集中しているので、主担任同士でじっくりと話し合う機会を設けるのが難しいと以前から感じていました。こうしてお互いの声に耳を傾けられる時間があることで、『この先生は最近こんなことを考えているんだ』とか『こういう目標を持っているんだ』とお互いの考えを知ることができました。それから、自分自身について見直す機会にもなっています。1ヶ月前に自分がどんなことを考えていたのかを記録しているので、それをもとにより具体的な意識づけができるようになりました。振り返りというと失敗したことや反省点などネガティブなことばかりに目が行きがちですが、成功したことや達成できたことなどを自分なりにポジティブに捉えて評価してもいいんだなと気づきました」
矢山先生はワークショップで行なったゲームからコミュニケーション方法のヒントを得て、職員同士の関わり方にも活かすようになったという。日頃から他の保育者たちと積極的にコミュニケーションを図るようにしたり、年代の異なる職員に対してはバックグラウンドの違いに配慮した言葉掛けをしたりと、ワークショップでの気づきをもとに意識的に変化を起こしているようだ。
保育の価値を創造し、人に貢献できる組織でありたい
──三ッ葉保育園の保育者のみなさんの姿は1年前、2年前と比較して着実に変化していることが伝わってきます。
藤井園長「園全体のパフォーマンスも上がりました。課題の発見、認識、解決、振り返り、などを定期的に行うことでみんなが“意識のある勤務”をしているなと思います。保育者自身の自己啓発にも繋がり、活き活きと業務に臨んでいる様子が伝わってきます。若手の職員たちも主体的に仕事と向き合う姿が見えてきたので、とても頼もしいです。そして、主担任であるミドルリーダーたちには特に大きな変化を感じています。現在は6人のミドルリーダーがいるのですが、お互いの姿がよい刺激となり『私もあの先生のような姿を見せたい』『あの先生のやり方を真似してみよう』といった相乗効果が見られるようになりました」
──藤井園長が思い描く今後の三ッ葉保育園の在り方について教えてください。
藤井園長「職員たちに、保育の仕事を選んでよかったと感じてほしいです。そして、誇りとやりがい、喜びを感じてもらいたい。それが土台となって保育の質が上がっていくことを期待しています」
──今はその下準備をしている最中なのですね。保育者のみなさんの意識が高まっていくことによって、目の前にいる子どもたちや保護者たちにもよい影響がありそうですね。
藤井園長「保育の価値を創造し、人に貢献できる組織でありたい。……というのはちょっと格好つけすぎでしょうか(笑)。保育を通して、子どもと保護者、そして保育者がそれぞれ良い人生を送れるようになることが私たちの目指すべき姿です。共に学び、共に育つことで、人や地域に貢献できる組織になれたらいいなと思います」
──最後に、一緒に三ッ葉保育園を創り上げている保育者のみなさんに対してメッセージがあればお願いします。
藤井園長「みなさんには保育という仕事を通して人生を充実させてほしいです。私は、仕事とは自分の心を満たすための手段だとも思っています。仕事がすべてではなく、プライベートとのバランスが大切です。みなさんには保育士以外になる選択肢もあるけれど、保育士を選んでいますよね。それはなぜなのか。常に考えて行動してほしいです。一人ひとりのマインドが変化して、誇りややりがい、喜びが大きくなればきっと保育もさらによくなっていくはずです」
保育者が誇りややりがい、喜びを持って保育に臨むことで、よい循環が生まれる。三ッ葉保育園は今この瞬間も変化と成長を続けている。
3年、5年、10年と時間を重ねるごとに、この場所には子どもと大人の笑顔がどんどん増えていくのだろう。藤井園長たちの挑戦を今後も引き続き追っていきたい。
法人名 | 社会福祉法人周防会 |
園名 | 認定こども園三ツ葉保育園 |
所在地 | 北九州市小倉南区中吉田1丁目18-7 |
電話番号 | 093-473-6755 |
園児数 | 135人 |
職員数 | 35人 |
募集職種 | 保育士 |
仕事内容 | 0歳から6歳までの子どもたちの保育、保育補助 |
雇用形態 | 1、正社員(新卒採用) 2、嘱託保育士(中途採用) ・正社員登用あり ・試用期間3ヶ月(試用期間中同条件) |
給与 | 1、正社員(新卒採用) 基本給 169,800円〜181,400円 給与改善手当 10,188円〜 処遇改善手当 12,000円 業務手当 7,199円〜 地域手当 5,615円〜 通勤手当 上限 21,900円 計204,802円〜239,874円賞与 4.45ヶ月分(1年目2.9ヶ月分) 【その他】 ・就職祝い金 50,000円 ・処遇改善一時金 260,000円 ・時間外手当 昇給 年1回、4月 ※短大卒、四大卒により条件が異なります。 2、嘱託保育士(中途採用) 基本給 181,400円〜188,000円 給与改善手当 10,884 円 業務手当 7,691 円〜 地域手当 5,999円〜 役職手当 10,000円〜 通勤手当 上限 21,900円 215,974円〜243,468円賞与 4.45ヶ月分(前年度実績) 【その他】 ・処遇改善一時金 260,000 円 ・時間外手当 昇給 年1回、4月 ※上記中途採用は参考例です。 経験、スキルにより変動します。 |
待遇 / 福利厚生 | ・社会保険(健康保険・厚生年金) ・雇用保険/退職金制度 ・宿舎借り上げ支援(一人暮らし費用サポート) ・資格取得支援 ・被服貸与制度(一部:エプロン・保育着) ・インフルエンザワクチン接種 |
勤務地 | 三ツ葉保育園 (北九州市小倉南区中吉田1丁目18-7) |
勤務時間 | 変形労働時間制(1ヶ月単位) 7:00-19:00 シフト制 |
休日休暇 | 完全週休2日制 年間休日120日 日曜・祝日・年末年始(休園) |
応募資格・条件 | 保育士免許、幼稚園教諭免許 |
求める人物像 | ・仕事もプライベートも充実させたいと感じている方 ・仲間と協力し、チームで保育ができる方 ・何事も遊び心を持ち、前向きに楽しめる方 ・向上心を持ち、共に学び、成長したいと思える方 |
選考プロセス | 履歴書/卒業見込証明書/成績証明書/資格取得見込証明書の計4点持参の上、面接を受けていただきます。 |
ホームページ | https://mitsuba-hoikuen.org/ |
https://www.instagram.com/ mitsuba_hoikuen/ |
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